7. 自分の子供は勉強していないだけで、いい先生について勉強したらできるはずだという思い込み

子どもの能力に合った勉強方法を!
 私の子供は勉強しないだけで、勉強したらできるはずだ、と思い込んでいませんか。
 確かに、子どもをみていれば、才能のある子とない子はかなりはっきりと分かります。この子は勉強すれば、このあたりの大学までは可能だろうとかなり正確に予測で きます。これは長年子供たちを見てきた経験からかなり自信を持って言えます。しかし、よく理解しておいて頂きたいのは、「できる」ということにはいろいろな「でき る」があるということです。これを英語の勉強でいえば、次の才能のうち子供がいくつ持っているかということです。
(1). 勉強力
(2). 理解力
(3). 記憶力
(4). 連想力
(5). 集中力
(6). 持続力
 以下で、一つずつ詳しく説明していきます。

(1).「勉強力」
この言葉は、私の造語なので今まで聞かれたことはないと思います。私が言う「勉強力」というのは「勉強をすることができる能力」のことです。「あの子は勉強がで きる」「試験でいい点が取れる」という言い方が普通かと思われます。しかし、多くの子どもたちを長年教えているとよく分かることですが、「勉強をする能力」と「試 験でいい点が取れる能力」とは異なります。これは本人の「頭の良さ」、つまり、「理解力」や「記憶力」とは異なった能力です。
 中学で学習する程度の量なら、頭のいい子は勉強しなくても、かなりいい点が取れます。学校の授業を聞いて、テスト前に1時間も勉強すれば、90点以上を取る生徒 もいるでしょう。クラブばっかりやっているのにどうしてあんなにテストの点がいいのかと不思議に思われる生徒もいると思われます。
しかし、大学受験となると、このような生徒も「勉強をする能力」が欠如している場合、なかなか志望大学に合格するのが難しいのです。大学受験においても、高校3 年夏までクラブ活動に熱を入れていたのに、現役で東大、京大に合格してしまう生徒も確かにいるにはいるのです。しかし、このような生徒は例外と見なさなければなり ません。普通の生徒がたいした努力もせずに国立大学に合格できるほど、受験勉強は甘くはないのです。高校で覚える量は中学の10倍と思って頂きたいのです。中学時 代なら、ちょっとの勉強でいい点が取れたとしても大学受験ではそうはいかないのです。ところが、「勉強力」が欠如している生徒は、よほど何か強い動機がない限りは 勉強を始めません。ここが悩ましいところなのですが、大学入試程度では「勉強力」を欠いた生徒には、勉強を始める動機たりえないのです。
ではどうすれば良いのか、という当然の疑問に対して、正直なところ妙案が私にもありません。残念ながら、今のところ、そのような生徒に対して私ができるのは、見 守ることしかありません。
(2).「理解力」
 この能力は、自分の子どもしか見ていない親御さんが正確に判断することはかなり難しいと思われますが、子どもを何人も教えているとおのずから分かってきます。 「理解力」があるというのは、どの程度まで「抽象概念」を理解し操作することができるかという能力です。自分の子供を親が客観的に判断することはかなり難しいこ とですが、それでも次のような質問を子どもさんにして見られればだいたいのことは推測できます。
(a) 「形容詞ってなにか、具体的に3つほど挙げてごらん」と聞いてみて下さい。
 これで、すぐ「きれい」とか「早い」とか「高い」と言える子どもはかなり理解力があります。しかし、これにすぐ答えられない子どもが多いですから、さらに次のように説明してから同じ質問をします。
(b)「形容詞ってね、ほら「きれいな花」っていうでしょう。その「きれい」が形容詞よ。「高い山」の「高い」とか「大きな建物」の「高い」も形容詞よ。他にもいろいろ形容詞があるわね。3つくらい挙げてごらん」と聞いてみて下さい。
 この段階で「あ、そうか。じゃあ、「広い」「青い」「小さい」なんかだね」と言える子どももかなり「理解力」があります。
 もし、上のようなステップを踏まず、いきなり次のように説明して理解する子どもは飛び抜けて優秀だと思って下さい。
(c) 「名詞、たとえば「机」や「花」などを修飾する言葉を形容詞というんだよ」と言ったときに、じゃあ「大きい」や「きれいな」という言葉は形容詞なんだね、とすぐ反応する子どもは相当頭脳明晰です。
 もし、(a)のあたりで四苦八苦していると、不定詞の単元で理解すべき「名詞的用法」「形容詞的用法」「副詞的用法」などの概念はほとんど理解できず、しばしば先 生が授業中に使う文法用語がまったく理解できないまま授業が頭の上を通り過ぎていくということになります。
(b)の段階くらいにあれば私立なら関関同立、国立なら神戸大・市大レベルの大学まで大丈夫でしょう。
(c)の段階にある子どもは他の「勉強する才能」や「持続力」があれば、東大でも京大でも合格するでしょう。
 英語では上に述べたような方法で「理解力」を知ることができますが、もっと分りやすいのは、算数・数学です。小学校のときに「文章題」ができたかできなかったが 一つの目安になります。「文章題」ができなかったお子さんは相当理解力が欠如していると判断していいと思います。逆に「文章題」がすらすらできれば間違いなく数学 は評定「5」でしょう。それほど教えて貰わなくても、自分でできてしまう生徒は「5」でもその上の方の「5」でしょう。
中学では「食塩水の問題」というのがあります。また、一次関数の式とグラフの関係を問う問題もあります。このような問題をすらすら解いている生徒はかなり出来ると判断できます。
中学のときにそれほど一生懸命勉強しなくても数学の実力テストでかなり込み入った応用問題がすらすら解ければ、大学ではかなりハイレベルな大学を目指すことができます。
(3).「記憶力」
 この能力は、新しい知識を覚え、必要なときに思い出せる能力です。
大学受験において「覚える」ということは非常に大切な要素です。しかし、「覚える」ということに関して生徒は何か誤解をしているのではないかと感じることがよくあります。
 私の塾でも単語集を与え、覚えてきなさい、ということで、毎週単語チェックをしております。すると、必ず「先生、覚えられない」という生徒が出てきます。そこで、 どのようにして、どれくらいの時間を「覚える」ことに割いているのか、そして「覚える」ことをどれくらい繰り返しやっているのか、聞いてみると、実は意外とやって いないのです。新しい単語を5回くらい見ただけで覚えられないという生徒、また、覚えたことを繰り返しやる必要があるのですが、それをしない生徒がとても多いので す。英語の単語を100くらい覚えるのはそれほど時間がかかりませんが、数千という単語を覚えるには、相当の時間がかかります。覚えたつもりでも繰り返し、繰り返 し反復し、そして英文を読み、また、覚え、そして読むという繰り返しが必要です。
それをせず、単語集だけ、それも単語しか書いてないような単語集を使って、「覚えられない」、「英文が読めない」という生徒に対しては、それは当りまえのことだ、 としか言えません。なぜなら、人間の脳は小学校の時の脳と違って、中学から高校になってくると、あるものを単発では覚えにくくなってくるからです。いろいろなこと と関連づけたり理解したりしないと覚えにくくなってくるのです。したがって、例文がついていたり、ある程度の英文がついている単語集などを使って記憶する方がよほど定着はいいのです。
記憶力はもちろんそれぞれの生徒によってその能力は違います。しかし、語学の場合、努力して継続していけば、きっと実を結ぶ日がくるのです。それを少しやったくらいで自分は記憶力が悪い、覚えられないというのは、勉強から逃げていると思ってもいいと思います。

(4). 「連想力」
 この能力は、いろいろな知識を結びつけて総合的に判断できる能力です。子供たちと話をしていると、語彙力や文法の知識だけみれば、それほど変わらない生徒でも、ある生徒 は高得点をとるのに、ある生徒はあまり点が取れないということがあります。この理由の一つが連想力です。連想力のある生徒は、単に問題文を読むだけでなく、出題者の意図や、 一般常識や、他の教科の知識なども無意識のうちに総動員して解答しようとしていますが、連想力のない生徒は、ただ、一直線に答に至ろうとします。そのため、非常に単純な質問 の場合は、できるのですが、ちょっと変化球を投げられると手も足もできなくなります。
 この能力はかなり先天的なもののように思われますので、もしこの能力があまりないと思われる生徒は、自分が持っている他の能力、例えば、勉強力や持続力を総動員して勉強 に励んで貰いたいと思っています。

(5). 「持続力」
 この能力は、語学の勉強において実に重要な才能です。昔、私がアラビア語の勉強を始めたときの先生がアラビア語は実に難しい言語だけれども、語学は「やる気・根気・年 期」の三つの「き」だよ、と言っていましたが、まったくその通りだと思います。数学などはかなり才能によって左右されます。しかし、語学は「持続力」という才能のある人に はかなり有利な分野です。「覚えようという意欲」があり、それを飽くことなく毎日続けられる才能、これは立派な「才能」です。この才能がないと、ちょっとやってはすぐやめ、 またちょっとやってはすぐやめ、ということを繰り返します。語学の勉強では、これはほとんど常にゼロからやっているようなものです。大学受験という膨大な知識量を要求され る試験を受けるにはまったく不向きです。
 英語の勉強は、数学のように問題を1問解いたときのあの「やった!」という快感はありません。山登りのようなものです。まったく回りが木ばかりの何も見えないところを ただ頂上目指して一歩一歩、歩いているようなものです。ところがそうしていると、ある日、パッと視界が開けるのです。その時の快感は頂上に登ったときの快感と似ています。 急にある日、英文で書かれていることがあまり辞書を引かなくても分り始めるのです。この快感を味わうためには「持続力」という才能が要ります。
 英語の勉強で味わうこのような快感は、数学と違って時間がかかるのです。ですからほとんどの人は、よほど強い動機がないかぎり勉強を続けることができず、結局、このよ うな快感を味わうことなく終わっています。
 しかし、逆に言えば、持続力があれば英語力はかなり伸びるということです。大学受験ということで言えば、1年間、持続して私の言う勉強方法を続ければ、かなり難度の高 い大学でも合格できます。
持続力は、連想力や理解力と異なり、意識的に身につけられる能力です。意識的に30分ずつ単語を覚える。これをするだけで、持続力がつくばかりか、人が生きていく上で大 切な忍耐力も身に付くのです。ひいては、これが勉強力の増強にもつながるのです。
だからこそ、この能力だけはフル活用してもらいたいものです。